本命に断られ…文科相「なんで俺?」 内閣人事の舞台裏

http://www.asahi.com/articles/ASK835J60K83UTFK01N.html?ref=nmail

 安倍晋三首相が政権浮揚をかけた内閣改造自民党役員人事。自ら「結果本位の仕事人内閣」と称した閣僚名簿だが、悩み苦しんだ末の跡がにじむ。問題を抱えるポストにはことごとく経験者を起用。来年の総裁選への思惑も絡み、局面打開とはほど遠いものとなった。

 「閣僚として入ってもらいたい。ポストは後で伝える」

 2日夕、自民党河野太郎衆院議員に安倍晋三首相から電話が入った。報道各社が内定した閣僚の顔ぶれを次々と伝え始めていた時間帯だった。結局、「外相」の連絡を受けたのは深夜だった。

 当初想定していた岸田文雄氏の留任構想が狂い、外相選びは最後まで難航し、首相側近の加藤勝信氏の起用説も飛び交った。閣僚経験のあるベテランは「外相なんて一番最初に決まっていないといけない。珍しい改造の流れだな」と首をひねった。

 加計学園問題をめぐって国会で追及を受け続けた末、東京都議選で惨敗。南スーダン国連平和維持活動(PKO)をめぐる日報問題では稲田朋美氏が防衛相を辞任。政権にとっては下落が続く支持率を下げ止め、「落ち着かせる」(首相周辺)のが当座の目標。首相にとって失敗できない人事だった。ところが、水面下の調整は首相の思惑通りには進まず、「遠心力」を印象づけるものだった。

 加計学園獣医学部新設を認可するかを審査する文部科学相は、人事の焦点の一つ。そこで首相は7月31日、大臣経験者の伊吹文明・元衆院議長とひそかに会談し、就任を打診。だが、固辞された。

 理論派でならしてきた79歳の伊吹氏。「三権の長」経験者として首相の「下僚」である一閣僚に座ることなど我慢がならなかったようだ。2日のBS番組に出演した伊吹氏は、打診について最後まで明かさなかったが、「非常に危機的だから、安倍さんにはどんなことでもしてあげたい。だが、もし頼まれても、『ちょっとできないな』と答えるだろう」と語った。

 結局、2年前に「政治とカネ」の問題で農林水産相を辞任した西川公也氏に代わり、「緊急登板」させたことのある林芳正氏を今回も起用した。

 林氏が所属する岸田派の若手は「困ったときの林大臣。大本命に断られて時間がない中で、ふさわしい人がいなかったのだろう」と解説。林氏本人も周囲に「なんで俺なんだろう」と漏らしたという。党幹部の一人はこの経緯について、「断るような人のところに要請してはいけない。内閣の威厳にかかわる」と苦言を呈する。

 ログイン前の続き稲田氏の辞任や日報問題で、防衛省自衛隊の混乱を収める役割を担う防衛相も焦点だった。首相は、江渡聡徳元防衛相の再登板も検討。ところが江渡氏は地元青森で衆院選の区割りが大きく変わるうえ、衆院青森4区補選の対応も抱えていることを理由に断ったという。最終的にはやはり防衛相経験者の小野寺五典氏で決着した。

 野田聖子氏の起用も一筋縄ではいかなかった。野田氏は、入閣の打診に対し、総務相など具体的なポスト名を挙げて要求した。自身に近い閣僚経験者と相談し、「高いタマを返しておいた方がいい」と助言を受けていたという。

 閣僚起用が決まってからも、実は不本意だったことを明かしたのは江崎鉄磨・沖縄北方相。3日の二階派会合で、「私は任にあらず」との言葉を用いて、いったんは固辞しながら二階俊博幹事長の説得で受け入れた経緯を語った。

 首相は3日の記者会見で、「党内の幅広い人材を糾合した、結果本位の仕事人内閣」と胸を張った。だが内実は、政権の置かれた厳しい状況を象徴するかのような迷走の末の組閣だった。記者会見での人選に関する質問に対して首相は、「人事の様々な過程については発言は控えさせていただきたい」と多くを語らなかった。

■「ポスト安倍」わかれる路線

 首相は自身の3選がかかる来秋の自民党総裁選も見据えて、「ポスト安倍」の有力候補3人の扱いに明確な差を付けた。

 「とことん政権を支える」と直接、言質を得た岸田文雄氏を希望通り党三役に起用し、「親安倍」路線に乗せた。岸田派からは党内第4派閥ながら最多の4人が入閣。若手から「完全に安倍列車に乗った。岸田首相の実現には禅譲以外の選択肢は取りづらい」と逆に不安が漏れるほどだ。

 2年前の総裁選で首相側から推薦人を切り崩され、立候補断念に追い込まれた野田聖子氏。総務相への起用について首相が会見で「なんでも率直に、耳の痛い話も言ってくれる」とその理由を語ると、野田氏は初閣議後の会見で「(首相が)謙虚な気持ちを取り戻すために、君子豹変(ひょうへん)ということか」と返した。野田氏は記者団に「総裁選というのは安倍さんを倒すことではない」とする一方、次の総裁選は「必ず出る」と明言。閣僚復帰で有力候補になりうるが、「非安倍」としての立ち位置は中途半端だ。

 対照的なのは、石破茂氏。石破派から当選3回の斎藤健氏を農林水産相に抜擢(ばってき)し、かつては石破氏側近だった小此木八郎梶山弘志の両氏が入閣。首相は3日の会見で石破氏を起用しなかった理由を聞かれたが、答えもしなかった。石破派幹部はこうした人事を「完全な石破潰しだ」とみて、反発している。

 ただ、首相が石破氏を意識した人事をしたことは、石破氏の存在を脅威とみていることの裏返しともいえる。東京都議選で惨敗し、求心力が落ちる首相に寄った岸田、野田両氏と違い、石破氏にとっては「反安倍」路線に旋回し、総裁選に向け首相との対立軸を打ち出しやすい。かえって「ポスト安倍」として存在感を高める可能性もある。

■「待機組」に不満も

 今回の人事で注目を集めた一人は、河野太郎氏だ。首相は「持ち前の発想力、行動力を大いに発揮してもらいたい」と述べ、外相としての手腕に期待を込めた。歯にきぬ着せぬ物言いで、異端児扱いだったが、所属する麻生派麻生太郎副総理、同じ神奈川県選出で近い関係にある菅義偉官房長官が将来のリーダー候補として重要閣僚に推したとの見方がもっぱらだ。

 選挙応援では引っ張りだこの小泉進次郎氏は、党の筆頭副幹事長に就く。支持率回復の切り札として閣僚起用の見方もあったが、小泉氏自身は打診されても断る意向をベテランに伝えていた。副幹事長は選挙対策なども担うだけに、官邸幹部は「自由に動けていいポジション」と解説する。

 閣僚や党役員から首相の「お友達」の多くは退いた。しかし、加計学園問題で疑惑が取り沙汰された首相側近の萩生田光一氏は、党幹事長代行に。首相の意向を党運営に反映させる狙いだが、党内からは「反省がない。結局、自分に近い人を切ることができない」(閣僚経験者)との批判が早くも飛んでいる。経験者の再起用も目立ち、各派が希望した初入閣待機組のほとんどが登用されず、党内には不満が充満している。

 首相側近の一人も「実力内閣でも何でもない。いよいよ大変かも知れない」と人事を振り返った。